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音源探査には、ビームフォーミング、音響ホログラフィー、音響インテンシティーなどの手法があります。
ビームフォーミングは、対象からある程度距離をとって計測する手法です。遠隔から計測するという意味で、Far fieldなどと呼んだりします。
一方、音響ホログラフィーや音響インテンシティーは、対象に10〜20cm程度まで接近して計測します。これらをNear fieldと言ったりします。
対象となる周波数レンジを見ると、ビームフォーミングが概ね300Hz〜20kHzをカバーするのに対し、音響ホログラフィーや音響インテンシティーは、通常、20Hz〜2kHz程度を対象とします。
ユーザーの目的や予算にもよりますが、どれか一つを選ぶのであれば、幅広い問題へオールラウンドに対応できるビームフォーミングシステムをお勧めします。
設定や解析が簡単で、原理(アルゴリズム)も理解しやすいため、ビギナーから熟練者まで、ユーザーを選びません。
ビームフォーミングの手法(アルゴリズム)もいくつか分類できますが、市場では、遅延和型ビームフォーミングが主流です。
ただし、同じ遅延和型ビームフォーミングシステムでも、音源解析としての能力は大きく異なります。特に、空間分解能と時間分解能に対する性能は重要です。
音源探査における空間分解能とは、複数の音源を空間的に分離する能力のことであり、実務的には、音源間の最小分離距離、あるいは音源マップ上で示される音源の広がりとして表されます。
遅延和ビームフォーミングにおける空間分解能は主として、1. 音源の周波数(波長)、2. 音源までの距離、3. アレー径に依存します。
これに加えて、アレーの形状やマイクロフォン間距離も影響を与えます。また、サンプリング周波数も関係します。
空間分解能は、教科書的には、SR = d×波長 / D と表されます。ここで、SRは空間分解能、波長は音の波長、Dはアレー径、dは音源までの距離です。
しかし、実際の現場で得られる空間分解能は、計測環境、アレーの種類、システムの性能、マッピング手法など様々な要因が複雑に絡まり、理論値とは異なります。
おおよそこのようなグラフで示されます。空間分解能については、後ほど、具体的なケーススタディーで、見ていきます。
さて、空間分解能とともに、時間分解能も、非常に重要な指標です。
これは、個人的な心証となりますが、学術関係者や業界関係者の方々は空間分解能についての議論は非常に熱心なのですが、時間分解能について、あまり語られないようですね。
しかし、「問題へのアプローチ」について述べたように(12月18日_冬至直前号_参照)、非定常的な問題の場合は、時間分解能により成果が決まるといっても過言ではありません。
時間分解能とは、どれだけ細かい時間長で音源を解析できるかを指し、これもいろいろなファクターが絡むのですが、基本的には、サンプリング周波数に依存します。
音源探査システムの仕様を見る場合、最大サンプリング周波数(サンプリングレート)を確認してみてください。24kHzや48kHz、96kHzや192kHzなど、システムによりかなり異なると思います。
ビームフォーミングは、一般的に、時系列の各チャンネル波形のズレ(遅延差)から解析します(下図参照)。現象が発生した時間帯を切りとり、音源マップを作成します。
しかし、発生時間が短い非定常現象の場合、適切に時間範囲を切り出す必要があります。
これは(下図参照)、車両のクラッチ系油圧部位に起因すると疑われた異常音源の解析事例です。異音(打音)を再現するため、対象部位をドライヤーで加熱して計測を行いました。
こちら(下右図)は、時間長が50ms(0.05秒)で、異音現象の時間範囲を全てカバーしています。
こちらは(下左図)、時間長が1ms(0.001秒)で、異音現象の立ち上がりの時間範囲を抽出しています。
この事例では、波形が立ち上がった時間範囲を切り出した音源が、シリンダーと油圧ホースの接合部を示しており、起振源(本質的な要因)の手がかりとして説得力を持ちます。
一方、異音現象全ての時間範囲が反映された音源は、(反響や共鳴など)全体構造を理解する上での参考にはなりますが、ここでの問題の本質とは離れています。
波形が立ち上がり、振幅ピークに達したのち、減衰する経時的な変化を平均化された音源と解釈できるため、異音源の特定という目的には適わないと考えられます。
※補注(上級者のみなさまへ)
ここでの時間分解能は、オーバーオールでの音源解析を前提としたものであり、遅延和ビームフォーミングにおいて必要となる、各チャンネル間の波の到達時間差に関する議論です。
周波数解析において問題となるFFT窓長と周波数ピーク分解能(1/窓長)のトレードオフは、本稿で扱う時間分解能とは別の次元の話となります。
車両のクラッチ系油圧部位の音源解析例_時間長1ms(左)と50ms(右)の音源解析結果
※ 再現のためドライヤーで加熱_音源マップの光学画像のため照明光源(下部)を使用
※ 情報管理上の理由によりオリジナル光学画像を調整したため左右の画像が若干異なります